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眠っている暇はない|土の記/高村薫

土の記/高村薫

2017.06.16 22:00|その他作品感想


あらすじやなんかは以下の書評からどうぞ。

ネタバレないのでおすすめ
http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017010802000188.html
好き
http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/shohyo/list/CK2017010802000188.html
http://style.nikkei.com/article/DGXKZO11975330R20C17A1MY6001?channel=DF130120166021
「作家は、土の世界を軽んじる現代人を憂え」…?何言ってるの…
http://www.yomiuri.co.jp/life/book/news/20160726-OYT8T50091.html


もしかしたら高村作品(除エッセイ)で一番読みやすいかもしれない。
でも前半の冗長さというか、「この小説はどこに向かっているんだ」感は一番強いかもしれない。
答え:どこにも向かっていない

この物語は、老いた一人の入り婿農夫の老後の日々を綴ったエッセイのようなものだ。
人生には劇的な出来事もハプニングもないと言わんばかりに、主人公=伊佐夫の日々は淡々と続く。
嫁が死のうと、孫が来ようと、犬を飼おうと、泥鰌と心を通わそうと、少女が失踪しようと、日々の農業は淡々と営まれる。
娘の諸事情は忘れても、伊佐夫の頭から稲の成長具合が消えることはない。
自然に相対するとは、そういうことなのかもしれない。

あえて縦軸になるものを挙げれば上記の通り稲の栽培なのだが、上下巻の間に稲刈りが二回程、田植えは三回くらい?行われる。稲が育って大げさに喜ぶことも、失敗して悲観することもない。ただ毎年春がくれば、田んぼを耕し稲を植える。それだけ。

ここまでまるで面白くない小説の紹介のようだが、不思議と面白いのは高村女史の文才故だろうか。
もう一つ、読めばすぐに出てくる「謎」が面白さを引き立てているのかもしれない。その「謎」は高村作品よりもむしろ京極作品の面持ちだ。

新潮社の紹介文には「」とあったが、これは見たくなかったなあ…。それがなくても結末はなんとなく予想できるようなできないような、だが。
そういう意味ではいつもの高村作品で、やはり入門編といえるかもしれない。

あとひたすらリアル。
寝たきり老人の饐えた匂いや、痴呆が始まった親戚に対峙するときにせりあがってくる涙や、爆発する少女の思春期や、そんな少女や若者たちに送られる困惑と嫉妬の混じった目線が。
リアルに想像できる、ではなく、リアルに感じたことをそのまま文章に落とされている。
もう世話をしなくていいはずの人のことを寝起き頭に「ああ今日も介護しなきゃ」と思い出すあたりがもう、うわあ…と頭を抱えたくなった。伊佐夫さん、がんばったなあ…。


以下ネタバレあり。

最後の一ページにも満たない文を読んだときに思ったのは、
「あっ」
だった。

そして、やはり高村女史は西側の人間なんだなあと思った。
この災害だろうか

正直に言えば忘れていた。でも言われたら思い出すあたり、当時大騒ぎだったはずだ。
でもやっぱり、311の方が印象が強いし、8年(!)経った今、NHKやなにやらで取り上げられるのも311だ。

この災害を忘れるな、と責められた気はしなかった。
自然と相対するのはこういうことだ。
自然を好きなままに操ろうとしても、無意味だと。自然の気まぐれですべて無に帰すのだと。
ラストに山を切り崩すだのなんだの言っていたせいかもしれない。
そんな必要はなくなったし、伊佐夫が実験していた田畑は消えうせて、昭代との思い出も「くにひこはむじつや」の怨念も少女の幽霊も土の底に埋まる。
いいことでも悪いことでもない。
自然の摂理。


上巻中盤と下巻最後の孫娘の帰郷が一番楽しかった。
なんのしがらみもな若さっていいなあと。特に最後の宴会は読んでいて頬が緩むくらい楽しかった。
今思えば、最後の晩餐なのだけど。

作中に出てくる「多分自分は土の上で死ぬ」(うろ覚え)
これを言った教師は波に飲まれ(おそらく)、伊佐夫は呪いのように死んだ(おそらく)。
だから、土の記。

やはり、高村女史の真髄はラストにあるのだなあと思った。

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